ホグワーツにある一番高い丘。其処には大木が一本在り、下には湖が見える。一面の銀世界であるその場所に一陣の風が吹いた。そうして現れた少女は地に足をつけた途端、その場に崩れるように倒れた。
その瞬間、何かの力が事切れたかのように少女の背中にあった両翼がその場で消えるように散った。真っ白い羽が少女の周りや上にひらひらと振り落ちる。そしてその羽と朝日に煌く純白の雪を鮮やかな赤で染めるのは少女の流している血。
「(…っ、やば…)」
残り僅かな魔力を使ったからかもう身体が動かない。翼も消えたという事は自分はかなり危険な状態だ。
「(…私、死ぬの、かな…)」
出血多量だし、魔力も殆ど底を尽きてしまっているし目は段々霞んできたし、体温がどんどんなくなってきてる感じがするし。きっと何時死んでもおかしくはない状況だと思う。
「(…別に、それでも…いいかも、しれない…)」
運命を変える事に恐怖を抱いてしまった私に、この先の未来を変える事が出来るとは思えない。だったら、役立たずな私は別に死んだっていいじゃない。
「(…そうだよ…シリウスにも言われたじゃない…)」
お前なんか必要ねえ、って。ディア達には悪いと思う。私が死んだ後の諸々の後始末をするのは彼等だと思うから。
「(……瞼が…重い…)」
このまま目を閉じれば死ねるかな。死んだら人は神様の所へ行くと聞いた事があるけど、私もそうなのかな。それともヒトではない私は神様の所へは行けないのかな。まあ、別に私は神様を好きでも嫌いでもないからどちらでもいいのだけれど。
「…わー……綺麗、だ…なあ…」
朝日の光がが湖の水に反射して輝いているのが見えた。
最後に見る光景がこんな綺麗なら文句は無いよ。
『貴女に、運命を変える事など出来ません』
貴女の言う通りでした。私には運命を変える勇気なんて無かった。
『…、ちゃん、は…っ…要らない…子なんか、じゃ…ない、よ…』
ううん、私はやっぱり要らないんだよ。
『お前なんか必要ねんだよ!』
解ってるよ、シリウス。私は生まれてくる事を望まれていなかったんだもの。
このまま此処で寝てしまう事にもう迷いなんか無かった。
もしも、もしも次に目が覚める事があるとしたなら、その時は、人間になれていますように。
そう願い瞼を閉じた。
Reiner Schein
りんごの毒と羽と躯
「あ、シリウス。に追いつけなかったの?」
「うっせえ。あいつ外に出たと思ったら忽然と消えたんだよ」
「うーん、あの羽で飛んでいったのかな?」
「…本当に、来た…」
リーマスの呟きに入口付近での行方を考えていたジェームズとシリウスはベッドの上のリーマスに視線を移した。
「本当に、ってどういう事だ?」
「というかリーマス、大丈夫かい?気分は悪くない?」
近寄ってくる二人を半ば困惑した目で見る。が言った通りだった。本当に二人は来てくれた。
「…が、二人がこれから来てくれるって言ったんだ…ジェームズ、心配しなくても何故かいつも満月の次の日は気分最悪なのに今日は全然大丈夫なんだ」
体調も良いし、おまけにいつもは満月の次の日の朝には出来ている怪我などが一つもない。
「…それよりも、といい二人といい、本当に…馬鹿じゃないの?人狼の僕の周りに好き好んで寄ってくるなんて」
「リーマス……馬鹿はシリウスだけだよ」
「おい、ちょっと待てジェームズ。真顔で何ふざけた事ぬかしてやがる」
ジェームズの頭を後ろから鷲掴みにしてギャイギャイと言うシリウスとそれを華麗なボケで交わしていく二人にリーマスは笑みが零れた。
「…どうやら、僕等が言おうと思ってた台詞は全部に持ってかれちゃったみたいだね」
残念そうな素振りを見せながらも顔は全然残念そうではないジェームズ。満月明けの朝、リーマスにこんな表情が出来ているという事はもう既に閉じていた心を開いているという事。それをやってのけたのはきっと、自分達より先に此処に来ていただ。
「でもリーマス、これだけは僕等からも言わせてほしい」
「?、」
「僕もシリウスも、君を心から大切な友達だと胸を張って言える」
「例え人狼だろうが宇宙人だろうが、お前は俺達の友達のリーマス・J・ルーピンだ。それだけは忘れんなよ」
彼等も彼女と同じような言葉をくれた。彼等も、僕を受け入れてくれたんだ。人狼のこの"僕"を。
「…うん、ありがとう」
僕は、達に助けられた。
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08.08.011 修正完了