俺達がリーマスは人狼なんじゃないかって気付き始めたのは極最近の事だった。ジェームズが毎度の如くスネイプに悪戯をけしかけた後、面白半分で奴の持っていた本を一冊持ってきたのが切欠だった。スネイプから奪った"魔法界の危険な生物"という本を読んでいてふと目がいったのが人狼の事が書かれてある頁だった。






『そういえば父さんが前に厄介な人狼の事を話してた様な気が…』


『お前の親父さんって闇払いだったよな?』


『ああ!僕の憧れだね!』


『で、その親父さんは何て言ってたんだよ?』


『フェンリール・グレイバックって人狼が自分の意思で人を襲ってるって言ってた事があるんだよね。狙うのは特に若い女の人と子供らしよ』


『げっ、最悪じゃねえか。ていうかそいつ人狼になっても自我があんのか?』


『よく解らないけど、意思があるって事はそうなんじゃないかな?』







最初はそんな話だった。全くリーマスとは関連性はなかったんだ。けれど、ふと窓の外を見たジェームズが感づいた。リーマスが保健室に入り浸りになり、そして月に一度のペースでホグワーツを抜けだしている事に。






『…リーマスは毎月必ず保健室入り浸りになって、しかもその後は必ずお母さんのお見舞いに行くと言ってホグワーツを抜け出している』


『けど、それがどうしたっていうんだよ』


『…気付かないかい、シリウス。リーマスが保健室に入り浸りになっているのは、いつも満月の一週間前からだ。そして、ホグワーツを抜け出していくのは丁度満月の時。その後リーマスは必ず身体に傷を作って帰ってくるんだ』


『…おい、まさか…』


『…確証はないけど、多分ね…』







暫しの沈黙の後、ジェームズが本から視線を上げて言った。






『…リーマスを助けてあげよう』


『…どういう意味だ?』


『シリウス、気付いてないとは言わせないよ?リーマスが見せるあの偽りの笑顔に』


『……』


『まるであの笑顔は境界線だ。自分には深く関わらないでくれと言われているような気になる。ハロウィンの時からまた前のリーマスに戻ったようにあの笑顔を貼り付けてる』







気付いていた。けど、あいつにもあいつなりの事情があるんだと思って何も言わないでいた。






『…あいつが人狼だてんなら、あの作り笑顔にも納得がいくな』






俺達と深く関わる事を避けてるのは自分が人狼だからか。






『あんな笑顔、僕はもうリーマスにしてほしくないんだよね』


『同感だな』


『僕が思うにリーマスは正体がバレて仲の良い友達が離れていくのが怖いんじゃないかな?』


『成る程な』


 『でだよ、シリウス!君はリーマスが人狼だと知っても彼と友達でいたいと思うかい?』


『ったりめーだろ。他の奴がどう言おうがあいつはあいつだ。他の何にでもねえんだからな』


『君ならそう言ってくれると思ったよ、シリウス。それじゃあ…』







こうして俺達のとる行動は決まった。決行は次の満月の日。











Diskrepanz
思いもよらぬ真実











談話室からが出ていってからはその場は静かだった。パチパチと暖炉の火が燃える音以外は何も聞こえない。

ムカついたんだ、が。リーマスが人狼だって知ってあいつの事を怖がるように震えて顔を青ざめさせたあいつが。友達じゃなかったのかよ。お前はリーマスの友達じゃなかったのかよ。


だから俺は本当の事を言ったんだ。来る必要なんかねえって。リーマスの事を人狼だからって怯えてる様な奴なんかついてこられても迷惑だって思った。






「…シリウス…さっきの言葉、まさか本気で言ったんじゃないよな?」






ジェームズの声がいつもの数倍は低い。怒ってるんだ、こいつは。を怒鳴りつけた俺にか?確かに少し良い過ぎたかもしれねえ。そのせいであいつは取り乱してた。けど俺はそれが間違いだったなんて思わない。悪いとは思うけど間違いだとは、絶対に。だから俺は引かねえ。






「…本気に決まってんだろ」






そう返した瞬間、ジェームズの腕が伸びてきて俺の胸倉を掴んだ。






「あの言葉でがどれだけ傷つくと思ってるんだ!」


「けどジェームズ!お前も見ただろ!あいつはリーマスが人狼だって知った途端あいつの事を怖がったんだ!リーマスの友達のあいつが!!」


「それでも!それでも、"必要ない"なんて言葉死んでも口にするな!!」


「本当の事だろうが!リーマスの事を怖がってるやつなんか来る必要なんかねえだろ!」


「だから、"来る必要がない"なんて…って、え?」


「な、何だよ?」






俺を引き寄せる形で怒鳴っていたジェームズが数センチ俺から離れた。つまりは俺を掴んでる手の力が少し緩まったという事。






「…君、に『お前なんか必要ねえんだよ』って言ったよね?」


「ああ」


「…それって、"この世にお前なんか必要ない"の『必要ねえ』じゃなかったの?」


「はあっ?俺がそんな事言うわけねえだろ。何言ってんだよジェームズ」






俺の答えを聞いた後、数秒おいてジェームズはその場で脱力してしゃがみ込んだ。長い溜息と共に。






「な、なんだよ。何だってんだよ」


「はあー…シリウス、君、言葉が足りないにも限度ってものが…」


「はあ?何訳の解んねえ事言ってんだよジェームズ」


「…さっきのじゃ、誰がどう聞いても"お前なんかこの世に必要ねえんだよ、コンチクショー"っていう意味の『必要ねえ』に聞こえるよ」






何だ、コンチクショーって。

って、俺がにこの世に必要ねえなんて言う訳ねえだろ。






「俺はそんな事に向かって死んでも言わねえ」


「君がそう思っててもはきっとこの世には必要ねえって言われたと思ったんだと思うよ。僕もそう聞こえたし。何よりあんなに取り乱す原因になったんだ」






そう、なのか?

もしそうだとしたら俺は絶対にあいつの誤解を解かなければいけない。俺はさっきみたいにに怒りを覚えたとしても、あいつにお前はこの世に必要ない、何て事は言わねえ。






「…とりあえず、も心配だけど大丈夫だと信じて僕達は暴れ柳の所に向かおう。どうやってあの木の下の穴に入るか考えなくちゃいけないからね」


「…ああ」






そして俺達が気に掛けていたは、あろう事か俺達の目指していた所に居た。










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08.08.011 修正完了