白と赤に包まれて倒れている少女の下へ一人の少年が近付く。朝日を受けてきらきらと光る雪の上には少年の足跡が真っ直ぐに少女に向かってついていく。肩に梟を乗せローブの帽子を深く被っている少年はそっと少女の横へ膝をついて、そのまま体温の奪われた少女の頬へと触れた。
「…今度こそ約束、守れるから……」
少年は肩に乗った梟を空に放ち、その梟が任務を果たすために森の中へと消えていくまで見送った後、再び視線を少女へ移した。そして自らの右手を少女の傷口へと翳す。
「…何もお前を守りたいと思ってるのはディアミスだけじゃないんだぜ…」
少年がそう呟いたかと思うと、傷口に翳していた掌から暖色の光が出て、少女の傷口を塞いでいった。
「…今は、この力があるから」
少年はもう一度少女の頬へと触れてから、自分達の周りに落ちている羽を一枚手に取った。元は純白だったであろうソレは、今では鮮血が交じり合い所々が赤く染まっていた。
少年は、その琥珀色の瞳に何を映すのか。
Ein unerwarteter Junge
予期せぬ登場人物
「とりあえずリーマス、歩けるかい?」
「うん、大丈、夫…っ」
ベッドから降りようとしたリーマスの目に入ってきたものは床に落ちている血。しかもまだ新しい。
そうだ、和んでる場合なんかじゃない。
「ジェームズ、シリウス!僕はもう大丈夫だからを探して!」
「…そうだね。に会って色々聞きたい事もあるし…」
「は怪我してるんだ!」
「え?」
「…はっ……僕が…僕が…っ!」
噛んでしまったんだ。
彼女は自分が人間ではないから大丈夫だと言った。人狼にはならないと。自分は天使だからと。でも、人狼にならないにしても死なないなんて事は断言できない。天使だって死ぬ時は死ぬ筈だ。出血の量程傷は深くない、なんて嘘だ。今思い出せば人狼の自分は思い切り彼女の肩に噛み付いたのだから深くないわけがない。
「リーマス、もしかして君…」
「っ…お願いだ…を助けて…!」
「…とりあえず落ちついてリーマス。シリウス、君もね」
ジェームズはリーマスを安心させるように宥めながら、もう既に部屋を飛び出していこうとしていたシリウスを顔を向けずに抑制の言葉をかけた。
「けどジェームズ…っ!」
「誰も探しに行くなとは言ってないだろ?シリウス、僕はリーマスを医務室まで連れて行ったら君と合流するよ。それまではの事は任せたからね」
「言われなくても」
「ジェームズ、僕はいいからを…!」
「僕達は君の事も心配なんだ。だからここまで来たんだよ?さ、立てるかい?」
「っ、でも!」
「リーマス」
部屋の中に背を向けるように入り口に立っていたシリウスの声で、リーマスはそちらを見る。肩越しに振り返りながら言われた言葉には妙な説得感があった。
「ぜってー見つけてくっから。お前は医務室であいつの事待っててやってくれよ」
そう言ってシリウスは今度こそ部屋を出て行った。
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08.10.07 修正完了