「合言葉は?」
その言葉に、反射的にはシリウスの後ろへ隠れる。キュッとシリウスのローブを掴み背中から少しだけ顔を覗かせ前方を確認する。
大変。見つかっちゃいけない人がもう一人。否、この人になら別に見つかっても構わないけれど、何も知らないのであれば混乱するだおるから今はまだ見つかる訳にはいかない。明日にでも彼女には説明しなえければ。
「?どうした?」
「このまま進んでっ」
「はあ?」
「いいから」
「(…このままっつたってよ…)」
シリウスはに握られているであろうローブの方を後ろ目でチラリと見る。
「(…何で心臓の音が早くなるんだ、俺。落ち着け俺!)」
「あれ?シリウスくん、顔が赤いよ?」
「うるせっ」
「に必要以上にくっつかれて照れてるのかな?」
「てめっ、ジェームズ!」
は太った婦人に見つかるまいと必死でシリウスの後ろに隠れ前進していたため、彼等の話の内容へと耳を傾ける余裕は無かった。無事にグリフィンドール寮へと繋がる扉を抜け、安堵しながらシリウスから離れるとシリウスの隣にいたジェームズがシリウスの肩へと腕を回し、少し離れた場所へとシリウスを半ば強引に引っ張っていってしまった。
話の内容までは聞こえてこないものの、その光景はある意味笑えた。ジェームズが何かを言うとシリウスは赤くなったり青くなったり、一体何を話しているのやら。
「女子の寮はそこの階段を右、男子は左だ。荷物は既に部屋に運び込まれてるはずだ」
監督生の言葉に新入生全員が階段を見る。それと共には今居る談話室内もグルリと見渡した。
ここも変わってない。金と赤を基調として作られた円形の部屋。暖炉があって、その前にはソファがある。部屋にはフカフカとした肘掛椅子や机等が邪魔にならない程度の多さで置かれていた。
何処か安心するんだ。最近解った。何も変わっていないからこそ安心する場所もあるって事。
監督生の解散の指示に従い、新入生達は各々自分の寮へと階段を上って行く。
「それじゃあ、また明日!」
「うん、おやすみジェームズ、シリウス」
「あぁ」
達もそれぞれ別れの挨拶をしてから自分達の寮へと入って行った。
Ein neuer Freund
隣国のお姫様達
宛がわれた部屋へ入ると既に自分以外のルームメイトは全員荷物の整理をしていた。その中にあのリリー・エバンズの姿もあった。全員、の姿を確認すると少し驚いた表情になったのが気になるところだ。
「…えっと…・、です」
もしかしなくても自分は何か此処に至るまでに女子に反感を買うような事をしてしまったのだろうか。十分心当たりがあるのだが。きっとアレだ。シリウスとかと歩いていたからだ。容姿端麗のシリウスと歩いていたからだ。ジェームズだって女受けが良さそうな顔をしている。いきなり平手打ちなんてものが飛んできたらどうしよう。
「私はリリー・エバンズよ」
真っ先に返答を返してくれたのはリリー。は内心ビクビクしながら宜しく、ね。リリー、と恐々と若干小さめの声で言った。
「…、貴女、」
「(来る…っ)」
段々と近付いてくるリリーを見てギュッと目を瞑った。平手打ちなぞ避けるのは容易い。けれど、避けた事によって新たな反感を買う事は目に見えている。まだ入学初日の今日はそこまで反感を買いたくはない。一発くらいなら殴られても大丈夫。女の子の殴る力なんて男に比べれば赤子も同然だ、多分。
「…やっぱり凄く可愛いわ!」
「……はい?」
ギュッと抱きつかれた感じがし、目を開けると案の定自分はリリーに抱きつかれていた。否、正確には抱き締められていた、と言う方が正しいかもしれない。
「…え、あの、?」
訳が解らず抱きつかれたまま他のルームメイトを見るとやれやれ、と軽く苦笑いしながら溜息をついた子と、リリーいいなー、と言いながら此方を見つめている子、正反対の彼女達が目に入った。
「リリー、そこら辺にしといてあげて。が困ってるよ」
「…リリーだけずるいよー。あたしも抱きつくー」
そう言って抱きついてきたのは金髪で青い瞳を持つ女の子の方。二人に抱きつかれて本気でどうしようか困っていると、もう一人の女の子が二人をから引き剥がしてくれた。
「もー、ベルまでを困らせてどうするの」
「だって可愛いんだもん…」
「自己紹介もしないで抱きついちゃダメでしょ…」
「あ、そっか」
思い出した様に金髪の子はもう一人の子と話していた体をクルっと反転させての方を向いた。それにやれやれ、と溜息をつく女の子とクスクスと苦笑いをするリリー。
「ベル・プリムローズです。宜しく、」
「えっと…宜しくね、ベル」
金髪で青い瞳。しかも小柄。何とも可愛らしい容姿の女の子のベルは見た感じの印象では極度の天然なのだろう。その天然ささえも可愛いと思う。
「アタシはセルフィーナ。セルフィーナ・レインズワースだよ。宜しくね、」
「うん。此方こそ宜しくね、セルフィーナ」
焦げ茶色の髪に琥珀色の瞳のセルフィーナ。此方はベルとは反対でどちらかというと綺麗な部類に入るだろう。何だこの部屋は。ベルは可愛いしリリーとセルフィーナは綺麗だし。美形揃いの部屋じゃないか。否、それよりも何故自分は抱きつかれたのだ。一番の疑問点はそこである。一発目には平手が飛んでくると予想していたものだから、意外なルームメイトの行動にかなり驚いた。
「まさかと同じ部屋になれるとは思わなかったわ!」
「ホント、ホント。アタシ達かなりラッキーじゃない?」
リリーとセルフィーナの言葉に更に首を傾げる。どうやら自分は歓迎されている様だがその歓迎が異様な気がする。これじゃまるで私と同じ部屋になりたかった、と言われている様なものだ。
「えっと…話が見えないんだけど…?」
「皆と同じ部屋になれたらいいねーって言ってたんだよ」
「え?何で?」
「が可愛いから」
………。
……………(・v・?)
はい?誰が何だって?
「え、は?うん、ごめん、もう一回言ってくれる?私の聞き間違いだったかもしれない」
「が可愛かったから」
……。
おーっと、聞き間違いではなかったのですね。
ていうか貴女の方が何百万倍も可愛いですけどね、ベルさん。
「特急を降りた時にを見掛けてからずっと可愛いと思ってたのよねー」
え、何だって?
「アタシの周りの子達も皆可愛いって言ってたよ」
いや、そこ。ちょっと待って。
「?大丈夫?固まってるけど生きてる?」
いや、まあ生きてますけど。
じゃ、なくて。
「…いや、あの私のどこら辺がそんなに可愛いの…?」
多少ぐったりとした感じでそう問えば全部、だとか小動物みたいなところ、とか色々な答えが返ってきた。
「…三人とも眼科に行く事をお勧めします」
「あら、私達の目は悪くなんかないわよ」
と、自信満々に言うリリー。残りの二人も強く頷く。
この可愛いの連発。と、いう事ははもしかしなくても、
「ねえ、リリー。もしかして組み分けの儀式の前こっち見てた?」
ジェームズがリリーと目が合ったと大喜びをしていたが、それは間違いかもしれない。これは自意識過剰とかではなくて、これだけ言われたのだ。これは誰もが思う事。
「ええ。ずっと貴女と話してみたいと思ってたから。あ、気分を害したのなら謝るわ…」
「え、ううん!そんな事ないよ」
案の定リリーはジェームズの方ではなく、私の事を見ていた。それをジェームズが知ると何かと煩そうなのであえて言わないようにしよう。
「あ、ベル!まだ荷物の片付け終わってないのに寝ちゃダメだってば!」
「……zzz」
セルフィーナの声にベッドの方を振り返れば、ベルのベッドの上にはトランク。そしてベッドに座ったまま器用に寝ているベルが見えた。とりあえず荷物片付けよっか、とリリーに言い、二人は荷物の整理を再開したのだった。
BACK-TOP-NEXT
08.07.27 修正完了