ポタポタとガボチャジュースが机から滴り落ちてジェームズのローブへと染み込んでいく。視線を遮ろうとした時に勢い余ってゴブレットを倒してしまったのだ。






「わ!ごめんジェームズ!」


「これくらい平気さ。それより君の方こそかかってないかい?」


「私は全然平気!あー、ごめん今綺麗にするから」


「え、別に大丈夫…」






ジェームズが言葉を言い終わる前には杖を取り出し、机とローブに向けた。杖を取り出したを不思議に思い周りにいた生徒達も何事かとの方を凝視する。それを気にする様子も無く、は呪文を唱えた。






「スコージファイ、清めよ」






呪文が唱えられると杖が向けられていた机とローブからは跡形もなくカボチャジュースが消えていた。それにはのその行動を見ていた全員が驚いた。ジェームズやシリウスまでもが唖然とした表情になる。






「ほんっとごめんね、ジェームズ」


「…


「な…何?」


「…君、魔法使えるの?」


「何言ってるのジェームズ?魔法使いなんだから魔法使えて当然……ぁ」






しまったぁぁぁぁぁっ




そうよ!今は一年生!ピカピカの一年生!

呪 文 は 使 え ま せ ん !


ああぁぁぁぁ…この前まで普通に使ってたからつい癖でぇぇぇ…っ



そうよ。まだ授業も受けてないような新入生が魔法なんか使えるわけないじゃない。何たる失態。どう誤魔化せばいいんだ。






「い…いや、あの、これはー…そのー…(どうしようどうしようどうしよう)


「凄いよ!」


「え?」






誤魔化そうと必死で言い訳を考えているといきなり手を握られ大きく上下にブンブンと振られた。一体何事かと手を握って振っているジェームズの瞳をみると、有り得ないくらいに輝いていた。子供が新しい玩具を見つけた時の様な嬉しそうな瞳の輝きをしている。





「まだ授業も受けていないのに呪文が使えるなんて!凄いよホグワーツに入るまでに必死に勉強したんだね!あ、そうなるとのご両親は有名な魔法使いだよね!?だってそうでもなきゃ学校に入る前に魔法の勉強なんてしないもんね!あれ?でも""なんていう名前の魔法使いは聞いた事ないな……」


「あー…あのー、ジェームズ?」


「おい、いい加減離してやれよ」


「何だいシリウス、焼きもちかい?」


「ばっ、そんなんじゃねーよ!」






いやいや、ジェームズ。シリウスは何に焼きもちを焼くの。否、それよりも何て説明しよう。流石にこれは簡単には流せないよね。他の生徒も聞いてるし。






「兎に角その手は離せ」


「はいはい。全く、君は心が狭いなー」


「うっせ」






シリウスの一言でジェームズの手からは開放された。ありがとう、シリウス。ついでに今だけジェームズを私の前から連れ去ってくれれば一番良いんだけど、そんな事有り得ないよね。





「で、。本当のところ、どうなんだい?」


「えーっと…ほら、あのー…友達のお兄ちゃんに教わったの!」


「あの僕に似てるっていう?」


「そう!その人、ホグワーツの卒業生だから」





まだ覚えてたのか、ハリーの事。否、逆にそんなに早く忘れたらおかしいのか。

必死に説明するの斜め前から青みがかった黒髪の生徒が話し掛けてきた。さっきシリウス達とクイディッチの話をしていた生徒だ。





「にしても一年生で清めの呪文が使えるなんて凄いな」


「あ、えっと…ありがとうございます」


「あ、オレはアスル。アスル・アリファフ。アスルでいいぜ。敬語もなし。よろしくな!」


「私は。よろしくねアスル」






ニカッと笑顔で挨拶をしてきたアスルにも笑顔で応える。

アスルはきっと将来有望な生徒になる。後輩からも慕われて先生達からの人望も厚い。そんな生徒になる気がする。彼の纏うオーラがそう思わせるのか、はたまたそれ以外の何かか。






「お前、他にも色々な魔法知ってるのか?」


「そうだけど…って何シリウスその目。ジェームズまで……」





嫌な予感だけはよく当たるというが今は正にその状況。さっき感謝したシリウスまでもが今度は嫌な予感の中心にいる。これは絶対に他のさっきの清めの呪文も込みで『魔法を教えてくれ』という目だ。彼等が上級生ならまだしも、まだ入学したての新入生。そんな基礎も出来ていない彼等に魔法を教えるなどと、簡単には言えない。きっとこっちの身が持たない。

案の定二人に『教えてくれ』とせがまれたは晩餐の最中ずっと彼等を上手く交わしていたのであった。










Decken Sie es
隠すべき姫の力











「さぁ、諸君、就寝時間。駆け足!」






ダンブルドアのその言葉を聞いて生徒達は次々と席を立ち寮へと戻って行った。新入生達は各寮の監督生の指示に従いながら大広間を出て行く。






「そういえば結局はどうするの?」


「え?何が?」


「来年の入団テスト」






来年、という事は今年は受けないのか。多分今年はシーカーやビーターの募集はしていないのだろう。それに一年生は自身の箒を持ち込む事を禁止されている。それを考えても今年入団テストを受けるのは無理だ。

否、それよりも。何故自分は既にクイディッチに興味がある人間として認識されているんだ。そりゃ、クイディッチは嫌いな訳ではないが、チームに入ってやろうとは思わない。






「んー…受けないと思うなー」






それを聞いて少し残念そうに肩を落とした二人。だがそれも各階へと続く廊下へと出た瞬間にはなく無くなっていた。壁に掛かる喋る絵画や動く階段達。それは魔法族にとっては何ら珍しいものではない筈なのだが。






「おい見ろよジェームズ!階段が動いてるぜ!!」


「どんな魔法かな!」






…訂正。喋る絵画や動く絵画は、魔法族にとっても珍しいらしい。魔法族の彼等がこの反応ならば、マグル出の新入生達は大いに驚いている事だろう。チラリと見えたリリーなんかは口をポカン、と開けていた。


と、そこに何処からともなく小石が降ってきた。それは確実に新入生達を狙って投げられている。殺傷能力は皆無に等しい程の大きさの小石だが、一体誰が。

そこまで考えてはっとした。これは、もしかしなくても…、






「ピーブス。姿を見せろ。"血みどろ男爵"を呼ぶぞ」






監督生の声に反応して、ポンと音のした後に意地悪そうな暗い目の、大きな口をした小男が現れた。ピーブスは空中であぐらをかいて漂いながら此方を見下ろしていた。






「おおおぉぉぉ!かーわいい一年生ちゃん!なんて愉快…ん〜?」


「(ヤバイ…)」






上手く隣にいたシリウスの影に隠れていたが見つかった。この夏休み中、ずっと避けて通ってきていたゴースト。このゴーストは悪い噂の発信源だ。こいつに見つかったら何を口走られるか解ったものじゃない。こいつは過去の世界にも居て、私の事を知っている。ともなれば絶対に不審に思う筈だ。余計な事を言われる前に先手必勝をしようじゃないか。






お前は…」


「(ワディワジ、逆詰め!)」






気付かれないように杖をピーブスに向け、無言呪文を唱える。すると床に転がっていた小石達がピーブス目掛けて飛んでいった。そしてそれは見事ピーブスの鼻に命中。ピーブスは悪態をつきながらズーム・アウトして消え去った。無言呪文は久々で使えるかどうか不安だったが、どうやら無駄な心配だったようだ。






「どうなってるんだ?」






監督生が首を傾げているのを横目に杖を仕舞う。見たところ監督生は五年生。無言呪文が解らなくても無理はない。






「何だったんだ、あいつ」


「あいつはポルターガイストのピーブス。ピーブスには気をつけた方がいい」






シリウスの呟きに監督生が答える。そして一向は寮を目指し再度歩き始めるのだった。










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08.07.26 修正完了