薄っすらとカーテンから差し込む光を感じて重たい瞼を上げた。今日から授業が始まる。そろそろ起きなくてはいけない時間だろうと思い、まだ覚醒しきっていない頭をなんとか活動させ、今まで眠っていたせいか少し重い身体をゆっくりと起こした。
「リリー、そこのブラシとってくれない?」
「ブラシってこれの事?セルフィーナ」
「うん、そう、それそれ。ありがとリリー」
「…まだ寝てるねー。あたしももう一回寝よっかな…」
「何言ってるのベル。もう朝食の時間でしょ。寝るんじゃなくて一緒に起こしましょう」
その会話が聞こえた後直にベッドの周りを覆うようにしていたカーテンが開かれた。一層眩しい光が寝起きの目には多少きつかったので掌を反射的に顔の前に翳して光を遮断する。光を背に自分のいるベッドを覗き込むかたちで此方を見るベルとリリー。その二人の後ろでは鏡に向かって髪を梳かすセルフィーナ。
「なんだ、起きてるんじゃない」
「ー、そろそろ支度した方がいいんだって」
いいんだってって、ベル、貴女も人事じゃないでしょ。、と胸中で呟きながらおはよ、と三人に朝の挨拶をする。三人からの朝の挨拶の返事を聞きながらベッドを出て身支度を始める。今日から新しい生活が始まるんだ。彼等と過ごす日々が。
「ごめん、皆。待っててくれてありがとう!」
「それじゃ、行きましょう」
「ホグワーツではどんな朝食が出るのかな?」
「…ホットケーキ食べたい…」
眠そうに歩きながらそう呟いたベルに出るといいね、と返しながら談話室へと続く扉を開けた。と、其処へ自分を呼ぶ声が階段したから聞こえた。
「おはよう、!」
「よぅ、おそよう」
「ジェームズ、シリウス!?ってシリウス!今何て言った!?」
二人がいる事に驚きながらも階段を下りる。その最中に言われたシリウスからの朝の挨拶におふざけ程度に怒ったフリをする。それにシリウスは冗談冗談、と笑いながら返してきた。
「で、どうしたの、二人とも?誰か待ってるの?」
「酷いなー。君を待っていたっていうのに」
「えっ!?嘘、ごめん!」
「、謝るだけ損だぜ。ジェームズの待ち人はお前であってお前じゃない」
「は?」
朝っぱらから訳の解らない事を言うシリウスに首を傾げる。それを見たシリウスは視線でアレを見ろよ、とジェームズが向かってた先を見た。その視線の先には、
「やあ!おはよう、エバンズ。僕はジェームズ・ポッター。ジェームズって呼んでくれて構わないよ!」
…納得。要はジェームズの待ち人はリリーか。早速今日からリリーにアプローチって訳ね。リリーもリリーの隣にいたベルやセルフィーナも行き成りのジェームズのアプローチにかなり驚いているようだ。ベルなんかは吃驚し過ぎて完全に覚醒した様子。
「おはよう」
「え?…あ、あはよう」
後方から声を掛けられて振り返った。と、其処には鳶色の髪をした少年が。やはりあの笑顔を顔に浮かべていた。
有り得ない事だけど、やっぱり人って一日じゃ変わらないよね。彼のこの偽りの笑顔が消えて欲しいとは思うけど一日で消えたりしたら逆に怖い、か。
「僕はリーマス・J・ルーピン。よろしくね」
「あ、私は・。よろしくね、リーマス」
「うん、よろしく。」
リーマスとは反対に此方は心からの笑顔で返す。向こう繕った笑顔だからって此方もそれに合わせていたら絶対に駄目な気がするから。会えた事を本当に嬉しく思っているような、そんな笑顔をリーマスに向けた。
とりあえず暫くは様子見ってとこいきましょうか。リーマス、必ず心からの笑顔が自然に出てくるようにしてあげるから。だから、それまでは辛い思いするかもしれないけど、頑張って。
「?、」
と、リーマスの後ろでと縮こまるように立っている男子生徒が目に入った。少しくすんだ金髪の小柄な少年。それが誰なのかには直に解った。
「おはよう」
「……ぉ…おはよう…っ」
先程リーマスに向けた笑顔と同じものを彼にも向けた。それに男子生徒は俯き加減でしかも小さい声ながらもちゃんと挨拶を返してくれた。
「私は・。よろしくね」
「…ぼ…ボクはピーター…ピーター・ペティグリュー……」
「よろしくね、ピーター」
「よ…よろしく…」
ジェームズと出会ったピーターはこんなにも内気な性格だったのか。この姿を見る限りこの先彼がジェームズ達を裏切るとは考え難い。否、それ以前にこんな内気な性格の彼が、リーマスはともかくとしても悪戯大好き、暴れるの大好きのジェームズとシリウスの二人についていくのだろうか。
そんな事を考えながらふと思う。
「(今はこんなにも平和なのにね…)」
この平和な日常も後数十年、否、数年後には崩れてしまうなんて。暗黒の時代が彼によって引き起こされるなんて。
やっぱりそれは、他でもない私のせい――。
Lieber Morgen
甘く平和な森
「…ジェームズ、痛くない?」
「これも愛の力さ!」
「……」
「ほっとけよ」
大広間に着いた八人はジェームズ、シリウス、、ベル。その前にピーター、リーマス、セルフィーナ、リリーという順番で席に座った。初対面でジェームズにあまり良い印象を受けなかったリリーはジェームズから一番離れた場所を席に選んだようだ。そしてその彼女に不快な思いをさせた元凶のジェームズの頬には、くっきりとリリーにくらった平手の後が。
平手を喰らってもジェームズのリリーへの愛は冷めないらしい。寧ろ今までより燃え盛ってしまっている。
「、君はエバンズと同室なんだよね?羨ましいよ、まったく」
「あははははは…っと、朝の配達みたいだね」
乾いた笑みを浮かべているとバサバサと鳥の羽音の様なものが聞こえその方向を見ると梟達が一斉に大広間へと入ってきて、郵便物を各々の主人の所まで持ってきていた。
「ありがと、リドル。はい、これご褒美ね」
「ホー」
日刊預言者新聞を持ってきてくれたリドルを肩に乗せながらベーコンを一枚やる。リドルは嬉しそうにその白い顔をの頬に頬擦りするように嬉しさを身体で表した。
「それお前の梟?」
「うん。リドルっていうの。ほらリドル。皆に挨拶、挨拶!」
肩に真っ黒で金色の瞳を持つ梟を乗せたシリウスが嬉しそうにじゃれるリドルに目を向けた。の命を受けたリドルは全員に向かってホー、と一鳴きした。
「赤い瞳の梟なんて珍しいね」
「私もそう思った。今まで見た事なかったんだよね」
紅茶に砂糖をザラザラと入れながらリーマスが感嘆の声を漏らした。
「…リドルはブラックの梟と対みたいだね」
ベルの呟きにその場の誰もが確かに、と胸中で呟いた。真っ白なリドルに対してシリウスの梟は漆黒。
「それにリドルの目はみたいだよね。ペットは飼い主に似るってホントだね…」
またしてものベルの呟きに一番驚いたのは言われた本人だった。言われてみればそうだ。リドルの瞳も赤で自分の瞳も赤。言われるまで忘れていた。連は私との共通点をこの梟に見つけたから贈ってくれたのだろうか。
「ホー」
「あ、じゃあね。リドル。ありがと」
ベーコンを食べ終わったのか、一鳴きして肩から飛び立ったリドルに別れの言葉と礼を言って見送った。
『それにリドルの目はみたいだよね』
一瞬、梟のリドルではなくて人間のリドルと自分の事を言われている様な気分だった。彼の瞳も赤。私の瞳も赤。梟リドルだけではなく、彼と私にも共通点はあったのだ。
「……」
ふいに見えた光景。それは一般人には有り得ないようなものだった。ザラザラと楽しそうに紅茶に砂糖を入れる少年。だが待て。その紅茶にはさっきも砂糖を入れてなかったか?
「リリリリリリーマスっ?そ…そんなに入れるの?」
「え?これくらい普通じゃないかな?ちょっと足りないくらいなんだけど…」
「そんな事ないから。十分人より上をいってるからね?」
「そうかな?」
そう言いながらもまだ入れようとしているリーマスから素早く砂糖瓶を奪っておいた。あれじゃいつか糖尿病になり兼ねない。彼の甘党は幾らかは知っていたが、まさかあそこまでとは。あの砂糖の量じゃ飲む時に溶け切らずにザリザリいうに決まってる。
っと、横でげっそりしているシリウスが目に入った。
「ありえねー…」
「シリウスってもしかして甘いもの苦手?」
「…まぁな…」
ああ、そういえば未来の世界でもシリウスはリーマスが嬉しそうにチョコを食べるのを見てげっそりしながら、お前絶対糖尿病になるって…、とか言ってたっけ。
…あの光景は笑えたな。
きっとあの関係は昔からのものなのだろう。今目の前でも同じ会話が繰り広げられているのだから。
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08.08.01 修正完了