「そーれ!わっしょい!こらしょい!どっこらしょい!以上!」
「(あの挨拶も変わらないなー…)」
ダンブルドアの挨拶と言えるのかどうか怪しい挨拶を聞きながら苦笑いを零す。と、彼の言葉が終わると目の前の金の大皿が食べ物でいっぱいになる。ミートパイやらパンプキンスープやら七面鳥やら、色とりどりのケーキやら。
目の前ではシリウスとジェームズが隣の上級生とクィディッチの話を嬉々としていた。
「へー、じゃあアスルはチェイサーなんだね」
「ああ。お前は入るならどのポジションになりたい?」
「僕は絶対にシーカーになるさ!」
「チームの生命線か。シリウス、お前は?」
「オレはビーターだな」
一年の頃からやりたいポジションが決まっているとは。そういえば、ジェームズは一年生でシーカーをやる事になるんだっけ。このままの運命でいけば彼は間違いなくハリーと同じく、一年生でシーカーに抜擢される事だろう。
ふと横目に入ったのは鳶色の髪。
それは紛れもなく自分の知っている彼で。だけど何かが違う。
「(…何で、)」
何 で 、 そ ん な 笑 い 方 し て る の ?
「は受けるか?」
「……」
「おい、聞いてるか?」
その笑顔を私は知ってる。だってそれは私が昔作っていた顔だもの。
人を拒絶する為に自ら張っていた、防衛作(シールド)。
人とある程度の距離を保ち境界線を引き、その線を越えた者とは容赦なく縁を断ち切る。私の奥にまで入ってくるな、と自ら人とは深く関わらず上辺だけの笑顔を振り撒いていた。
今の彼の笑顔は、その時の私と似すぎてる。
「おい、!」
「…え?あ、何?」
「たく、何見てたんだよ?」
「な…何でもない!」
シリウスが呼んでいる事にも気付かないくらい、自分は考えに没頭していたのか。まあ、彼の境遇を考えれば有り得ない話でもない。誰だって自分が傷つくのは怖い。きっとあれは彼なりの防衛作。私と同じ方法の。
「そ…それで、どうしたの?」
「だーかーらー、入団テストだよ!」
「入団テスト?」
「クィディッチ選手を決める選抜テストさ」
「へー」
視線はやはり彼に向けたまま生返事をする。少し離れた席に座っている彼。同じ新入生で間違いはない。バチリ、と鳶色の髪の少年と目が合った。少年はニコリ、と微笑んだ後直にから目を逸らす。
あの人にあんな笑顔向けられたの、初めてだ。
「?さっきから何見て…」
「な…何も見てないって!」
視線の先を辿る様に目を動かしたジェームズを慌てて止める。別に止めなくてもいいのだが何故見ていたのか、と聞かれると何かと面倒くさい。先ず本当の理由を説明するのは絶対に有り得ない。となれば嘘の理由を言えばいいのだが、いい加減嘘を考えるのも面倒くさくなってくるのだ。
ジェームズは気付かなかったものの、シリウスは気付いた事をは知らない。そしてシリウスも何故今少しだけ、鳶色の髪の彼にイラっときたのか解らなかった。
ねえ、貴方はこの先、未来の様に笑ってくれるよね?
ねえ、リーマス…。
Es wurde geschlossen
心を閉ざした小人
今日も僕は変わらずいつもと同じ様に日々を過ごす。上辺だけの笑顔を作って人と接する。きっとこれは境界線。僕自身を守る為の。最初は抵抗があった。この笑顔を作るのにも、人と関わらないと決心した自分の心にも。だけど、それは月日を重ねるごとに慣れてきてしまった。今じゃもうこれが僕の当たり前。
怖いんだ。深く関われば、それなりに親密な関係になるという事。心を許した人達が僕の事を"化け物"と言って離れていってしまうのが怖いんだ。
「そ…それで、どうしたの?」
「だーかーらー、入団テストだよ!」
「入団テスト?」
「クィディッチ選手を決める選抜テストさ」
「へー」
少し離れた所からそんな会話が聞こえてきた。何でだろう。会話なら何処からでも聞こえてくるのに、今のだけは僕の耳に妙に残った。ふっと声のしてきた方を見れば女の子と目があった。綺麗なワインレッドの瞳。その瞳に向かってあの笑顔を向けて直に視線を外した。勿論、不自然じゃない程度に。
視線を逸らす前に見えた彼女の少しだけ悲しそうな表情はきっと気のせいだ。
「?さっきから何見て…」
「な…何でもないよ!」
彼女のその声の後にガシャンッという何かが倒れる様な音が聞こえた。
BACK-TOP-NEXT
08.07.25 修正完了