「ねえ、は誰がやったと思う?」
グリフィンドール塔へと戻る集団の中に混じりながら歩くセルフィーナが横にいるに先程の悪戯の犯人の予想を聞いた。セルフィーナもリリーもベルもその手に適量のお菓子を持っていた。勿論、怪しまれないように自分も適量を確保しておいた。
「んー、誰だろ?セルフィーナは誰か心当たりある人いる?」
実際いてもらっても困る。
周りの他の生徒からはあれは楽しかった、だの誰がやったんだろう、だの色々な言葉が聞こえてきた。楽しかった、と聞くと自然と嬉しくなって頬が緩んでしまう。いきなりニヤつく事にならないように、は必死でその喜びに耐える。
「シリウス達とか?最近シリウスとジェームズは何かと悪戯ばっかりじゃない?」
「それはないわよ。あの人達が人を喜ばせるような悪戯をできるようには見えないもの」
「…リリーあの二人の事嫌いだもんね…」
眠そうにそう言ったベルにリリーはこんな所で寝ちゃ駄目よ、ベル、と若干ふらつき始めてきたベルをセルフィーナと一緒に支える。
ああ、ごめんなさいジェームズ。もしかしたら貴方が嫌われるような要素を作っているのは三分の一は私のせいかもしれません。ジェームズに悪戯に使う魔法の基礎を教えてるのは私。そしてそれを応用してジェームズ達は日々悪戯を嗾ける。つまりは私が魔法を教えている事によってジェームズはそれを使い、その結果リリーに嫌われている、と思う。
「(…まあ、いっか)」
「でも、本当、誰がやったんだろう。あれ、相当高度な魔法なんじゃない?」
「あんな高度な魔法を使うなんて…益々あの二人なんかじゃないわよ」
談話室へと続く穴を通り抜けながらリリーがそう言った。その言葉に先に穴を潜り抜けていたセルフィーナとは顔を見合わせて苦笑いを零した。
Ein Vermittler
小人の策略
「ー!」
談話室に入った途端、エネルギーが底を尽きてしまったかの様に眠ってしまったベルを何とか寮まで運ぼうとしている時、自分の名前を呼ぶ声が談話室の入口付近から聞こえた。振り返ればジェームズが足早にこっちに向かってきていた。そしてその数歩後ろからはシリウス。ジェームズ曰く"大丈夫"らしいが、先程の態度もあるからなのか、やはり少し不安なのは変わらない。
「さっきのどうやってやったんだい?」
「え……さっきの?」
今の自分に効果音をつけるとしたら、ギクリ、が一番合う事だろう。何しろ此処にはリリーが。セルフィーナや寝ているベルはともかくとしても、悪戯反対人間のリリーが。否、きっとリリーは善なる悪戯ならばいいのだろうが。けれど、先程の悪戯の犯人が私だと気付いたりしたら、そこから芋づる式でジェームズ達に悪戯に使う魔法の基礎を教えているのは私だと気付かれてしまう。そうなれば何と言われるか。
『あの二人に二度と近付いちゃ駄目よ!魔法を教えるのも禁止』なーんて、流石のリリーでも…、
「(…大いに有り得る!)」
「さっきの大広間でのいたz「あーっと、シリウス大変!今ダンブルドアからテレパシーがきた!」
「「「「………は?」」」」
シリウスの言葉を遮ってそう言うと、二人だけじゃなくリリー達まで何を言ってるんだ、という顔をしてくれた。
私は断じて痛い子じゃありませんよー。
そして良い子の皆さん。ダンブルドアがテレパシーを使えるなんて事は有り得ないですよー。
「自分の所まで来てほしいんだって。よし、直行こう。今直行こう」
右手でジェームズの腕を掴み、左手をシリウスの首に回して一目散に談話室から出た。ベルだけならあの二人だけでも余裕で部屋まで運べるだろう。浮遊呪文を使えば一発だ。
レディの扉を出たところでシリウスの方からぐ、ぐるじい…、って声が聞こえてきたけどきっと気のせいだ、うん。レディから少し離れた廊下でやっと足を止めた。
今考えれば凄いな、私。男の子を二人も力任せに連れてきたよ。
「お…前、ちょ、まじ……何、すんだー!」
シリウスの首から腕を放した瞬間。もの凄い形相で怒鳴られた。でも息切れ切れ。あ、やっぱり苦しかったんだ(そりゃな
「や、聞かれると色々と問題があるメンバーだったから、つい」
「『つい』で俺を窒息死される気かよ…」
「そしたら骨だけは拾っといてあげるよ、シリウス」
「勝手に殺すな!」
ジェームズ、いくら何でも骨だけっていうのは……。否、元はと言えば元凶は私か。
「それより、よく私があの悪戯の犯人だって解ったね」
「まあ、殆ど勘に近いんだけどね。やっぱりだったんだね!」
「そ。ハロウィンの夜なんだから、今日この日にこう言った事しなくて何時するっていうのさ、と思ってね」
一年に一度の、悪戯をしても許される日。私にとっては特別な日。良い意味でも、悪い意味でも。
「ごもっとも」
「一体どうやってやったんだ?」
ふと気付いた。私、普通にシリウスと喋れてる。ジェームズやディアミスの励ましが効いた、のかな。
「教えてあげるのは良いけど、今までみたいに簡単な応用じゃないよ?今回は応用技の上級者編だと思う」
そう、教えるのは別に構わない。ジェームズにはさっきの借りもあるし。けれど、今回のはそう簡単に出来るものではない。赤毛の双子にだって、これを教えたのは彼等が四年生の時なのだから。
「問題ねーよ」
「僕達の手にかかればあっと言う間さ」
自信たっぷりにニヤリ、と笑う二人。まあ、予想は大体していたからこの返答には別段驚きはしない。伊達に初代悪戯仕掛け人の名をこれから背負おうとはしていない、という事だろう。
「じゃあ、先ず基本から教えるから、今週の土曜日に図書室で勉強ね。今回のは基本からやってかないと応用できないものっぽいから」
「ありがとう、」
「サンキュ。そういえば、明日からさっきの奴が転入してくるんだよな?」
『さっきの奴』、というのはディアミスの事だろう。出会いが出会いだっただけにシリウスはディスに良い感情は持ってないかもしれない。
「うん。明日の夜に組み分けの儀式やって、それで正式にホグワーツ生になるらしいよ」
「へー、夜に組み分けやるんだー」
「…ねえ、シリウス。さっきの事なんだけど…」
「…別に、もういぜ。今はな。あいつとの会話についても何も聞かねえよ。それと…さっきは悪かったな。無視したりして…」
謝罪をしてきたシリウスに一瞬ぽかん、としてしまったが、直に笑顔で、もう気にしてないから大丈夫、と返した。その返事を聞いたシリウスも優しく微笑み返してきた。その後に戻ろうぜ、と言って歩き出したシリウスを追う際に隣にきたジェームズを見上げると、
"ほら、言った通りでしょ?"
と、言われた気がした。実際に声には出していないが、目線でそう告げられた気がするのだ。
「(…いつか、全てを話せる時が来ればいいのに…)」
ジェームズと、そして前を歩くシリウスの背を見ながらそう思った。
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08.08.09 修正完了