「トリック・オア、トリート…」






そう呟けば一粒のチョコレートが掌に落ちてきた。










Schelmischer Erfolg
りんごの毒に犯された王子様











「ねぇ、シリウス?今日は私と一緒に過ごさない?」


「ブラック。今度私の家で姉の誕生パーティーをするの。良かったら貴方方ブラック家もいらっしゃらない?」


「今日の服装とっても似合ってるわ。やっぱりブラック家の長男だけのことはあるわね






群がる女達。その中心にいる俺。こいつ等、ウザイにも程がある。殆どが年上の奴等。しかも大半がスリザリン生ときた。断っても断っても纏わりついてきやがる。

ウザイし香水臭せえし。ブラック家がどうたらだとか言ってくるし。おまけにやたらと腕絡ませてくるやつがいるし。さっきの会話は気になるし。あいつ等にもさっき怒鳴っちまったし。


…って違う違う!

話が逸れてるぞ俺。今はどうやったら此方を散らせるか考えろ。


ふと入口の方へ目を向けると、今入ってきたばかりであろうと目が合った。にも関わらず何故だが直に視線を逸らしてしまった。






「(…何やってんだ、俺)」






あいつを困らせたい訳じゃない。かと言ってさっきの会話の内容を知りたくないとは言えない。正直かなり気になってる。






あぁ、お前の言う通りその瞳の色と髪の色を持って生まれてきた奴は居るかもしれない。だが、その髪と瞳。両方の色を持ち合わせて生まれてくるのは空白の姫以外に居はしない』


おばあちゃんは私と同じ色の髪と瞳をしての。それで"空白の姫"って呼ばれてた。だから、あの人は私も空白の姫だと勘違いしたんじゃないかな』







さっきの丘の上での会話を聞いてる時、一瞬あの時の会話が脳裏に蘇った。歪みのある世界、そして空白の姫。無関係ではないような気がする。






「(…今度調べてみるか)」






ホグワーツの図書室になら何か秘密が解るものがあるかもしれない。何か解る、と前向きに考えてしまえば今まで納得できないでいた事がもうどうでもよくなってきていた。






「(…本当は、)」






こんな事反則だ。話す時がくるまで待つ、俺達は、少なくとも俺は渋々ながらもそれに了解した。納得はしてなくとも、あの場から去った事で達には理解した、ととられている筈だ。それなのに"その時"が来る前にあいつの事を調べようとしている俺は反則者だ。






「(…でも…)」






知りたいんだ、何故か。あいつの事は。さっきの会話からして、もしかしたらじゃ大きな事を抱え込んでいるのかもしれない。もしそれを俺が知れたら、その背中に背負っている重たいものを軽くする事が出来るかもしれない。出来るのであれば、そうしてやりたい。友達、だから。






「(…友達…)」






友達、なのか?何処かしっくりこない気がしなくもない。否、気にするな。そうだ、は友達だ。俺達の仲間だ。






ポンッ






パーティーの終わりを告げ、解散の言葉を言い終わったダンブルドアの頭の上ら辺に音がして何かが現れた。






「何だ、あれ」






小さなオバケの形をしてるものが、ダンブルドアの上でふよふよと浮かんでいる。






ポンッ ポンッ ポポンッ






次々と同じ様な音がしたので回りを見ると、ダンブルドアの上に現れたのと同じようなオバケ達がそこらじゅうに現れていた。

一体誰が?ジェームズか?

ちらり、とジェームズの方を見れば、ジェームズも何が起こっているのか解らない、という顔をしていた。


出現したオバケ達は徐々に一つに集まり始めた。そして、一つ(というか一匹?)を残して全てが合体し終わった後、残った一体が光を放ちながら破裂し、今度はその場に文字が現れた。






"ハロウィンの合言葉は?"







本当に誰だ?ジェームズじゃないなら誰がこんな事を。






「…トリック・オア・トリート?」






静まり返った大広間内で誰かの呟く声が聞こえた。ポンッ、と音がして巨大オバケの口からお菓子がニ、三個飛び出して声のした方へと落ちていった。






トリック・オア・トリート?」

「トリック・オア・トリート…?」






今度も音をたてて、お菓子は声のした方へと落ちていく。

次の瞬間にはに『トリック・オア・トリート』という言葉が大広間中から聞こえてきた。すると、突然巨大オバケは今より更に大きく膨らみ始め、パンッと弾けた。そして空中にはまた煌く文字が。






"Happy Halloween!!

今宵が貴方にとって特別な日になりますように"







歓声が上がる。俺の周りにいたスリザリンの女のどもはあまり嬉しそうにはしていないものの、その手の中には数個空から降ってきたであろうお菓子があった。






「トリック・オア、トリート…」






そう呟けば一粒のチョコレートが掌に落ちてきた。






「(すげえ…!)」






単純に凄いと思った。さっきまであったモヤモヤとした感情なんかは今の俺の心の中には無い。この悪戯に魅入られた、楽しい、と思う気持ちが大きかった。






「シリウス!」






名前を呼ばれて振り向けば、ジェームズが腕一杯にお菓子を抱えてこっちに足早に来ていた。俺は周りにいた女達の中から抜け出して、こっちへ向かってくるジェームズの方へと走った。






「シリウス、の所へ行こう!」


「は?何で?」


「この悪戯の犯人は間違いなくさ!」


「…は!?」






がこれの犯人?まじかよ。

俺は再度、宙に浮かぶ煌く文字を見た。






しかこんな高度な悪戯を出来るやつはいないとみた!」


「…だな!他にいたとしたら、今までに何もしてないのはおかしいしな」


「そういう事。って、わけで早速の所へ行って、この悪戯の方法を聞くとしようじゃないか!」


「賛成」






俺達は俺を呼ぶスリザリン生の女子生徒を無視して、ぞろぞろと談話室に戻り始めている集団の中へと加わって、悪戯の犯人を捜し始めた。











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08.08.08 修正完了