眩しさと少しの暑さを感じて目を覚ますと、其処には見慣れない白い天井。ああ、自分はまた戻ってきたんだっけ、と段々と覚醒してきた頭で思い出すのと同時に今は何時だろうと枕元にある時計を見る。指針は7と6を指していた。
「…これは、寝坊?」
ついこの間まで居候していた未来のブラック家の家での起床時間は七時だった。今の時刻は七時半。あの家でなら間違いなく寝坊なのだが、此処はもうあのブラック家ではない。ましてやあの世界でもないのだ。今のこの時刻が寝坊なのかそうではないのか、全く検討がつかない。
と、コンコンとノックをする音がマクゴナガルの部屋へ通じる方の扉から聞こえた。便利な事にこの部屋には廊下へ通じる方の扉と、隣のマクゴナガルの部屋へと通じる扉の二つがあった。
「、そろそろ起きなければ朝食を食べ損ないますよ」
「…今起きまーす…」
多少の眠気には負けずにベッドから出る。顔を洗い、歯を磨き、髪を梳かし、私服に着替える等、身だしなみを整える。丁度その時、もう一度ノック音が聞こえて今度はそのまま扉が開いた。
「準備は出来ましたか?」
「ん、一応。待たせてごめんね」
「気にしなくとも大丈夫ですよ」
その後二人並んで大広間へと足を運んだ。
大広間はいつもの景色とか違い、長机が一つしか出ていなかった。いつもは上座にある教員用の机も無い。広間の中央に置かれた唯一の机に教員達は座って各々朝食をとっていた。人数的に学校にいる教員の半数もいないだろう。まだ学校が始まるまで一週間弱。実家や旅行に行っている教員達はまだ戻ってきてないという訳だ。
だが、少人数だからこそ目立つと言うもの。この時期にホグワーツに見た目一年生の自分が居ればそれは注目の的。朝食の席へと近づくにつれて教員達の視線がどんどん集まってくるのに嫌でも気付く。だがその視線はどれも驚きのものではなかった。何かを再度確認する様な視線。
「(流石、校長)」
こんな視線が自分に向けられてくるという事は既に何らかの事情はダンブルドアから各教員に話されているのだろう。自分の肩書きはきっと『ちょっと訳有りな新入生』になりそうだ。だが、事前に話してもらっていれば此方としても一々嘘で塗り固められた言い訳を考えなくても済むから有り難い。
席に座りながら全員に向かっておはようございます、と言うとそれぞれがおはよう、や、おはようミス・、等々の挨拶を返してくれた。
「おはよう」
「………」
懐かしい顔ぶれを発見した。片方は以前と変わらない笑顔で挨拶をしてくれ、もう片方はミートパイを片手に口をあんぐりと開けている。この反応からしてこの二人、ホラス・スワグホーンとルビウス・ハグリッドには、マクゴナガルにしたのと同じ説明をダンブルドアはしてくれたのだろう。彼等はマクゴナガルと同じで過去の自分を知っている者達だ。何も知らない教員達へした説明と同じ説明をしても意味が無い。
ハグリッドの反応に内心少しだけ苦笑いした。あらかじめダンブルドアから私がこの世界へ十一歳の姿で来ている事は聞いていた筈だが、それでもこいう反応を見せるところは昔となんら変わりない。再度ハグリッドにおはよう、と笑顔で挨拶をすると慌ててハグリッドも我に返った様に挨拶を仕返した。その様子に今度は内心ではなく表に出してクスクスと笑ってしまった。
「っと、そうだ。ダンブルドア先生。私今日ダイアゴン横丁へ行ってきます」
「解った。気おつけて行ってくるんじゃぞ。帰りはあまり遅くならんようにの」
「はい」
まるで親子の様な会話だと思った。そして同時にこの平和な日常が懐かしいとも感じた。平和だったんだ、この時までは。いつ頃からこの平穏な日々は崩れていくのか。きっとそれはそう遠くない未来に起こる。それを防ぐ為に私はこの世界へ来た。
私の罪の償いをこの地でやる。例え、それがどんなに危険であったとしても。
Ich fordere es Stock
森の中でも日は当たる
グリンゴッツの金庫から金や銀、銅等といった硬貨を取り出してから杖を求めてオリバンダーの店へとは向かった。金庫にあった大量の金は全てレンが用意してくれたものだった。あれだけの金を一体何処から仕入れてきたのかは不明だ。だが、あれだけあれば例え卒業までこの世界に留まったとしてもお釣りがくるだろう。なんと用意のいい事だと思った。そしててそれと同時に大きな感謝の気持ちも生まれた。
オリバンダーの店の扉を開けると戸に下がっていた来客を知らせる鈴がチリンチリンと鳴る。この音も久しぶりだ、と思いながら店内へと足を進めた。鈴の音を聞きつけて奥から出てきた翁へと微笑みかける。一方その翁はと言うと、大きな薄い色の瞳を更に大きく見開き、まるで鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしていた。
「…さん?」
「こんにちは、オリバンダーさん」
がそう言うとオリバンダーは直に頭(かぶり)を振った。その様子に朝のハグリッドの時同様に胸中で苦笑いする。
「…いや、そんな訳がない。さんが今やこんな小さなお姿の訳が……」
「オリバンダーさん、貴方は間違ってないですよ。私は・です。貴方の知っているね」
再度大きく見開かれた薄い色の瞳にはやはり苦笑いを返す。後何回誰にこの反応をされるだろうか。あまり昔の自分を知っている人物には会わない予定だが、ばったり会う可能性も有りうる。その時には少し面倒くさい気もするがある程度の事は説明しなければ。今からするような説明を。
「実は、ある事情があって今は十一歳の姿なんです。でも私は昇正真正銘、数十年前にこの店に杖を返しにきた・です」
がそう言い終わるのとほぼ同時、店の扉が開かれた。
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08.06.15 修正完了