『お前なんか生まなきゃよかった!要らないのよ、あんたなんて!』
『また、会おう、な…』
『こうなる事は決まっていました。これが運命。貴女の唯一逃れられないモノ』
『強く、なりたいです』
『貴女に、運命を変える事など出来ません。貴女は…』
「っ!?」
まだ朝日が昇る前。少女はその躯を横たわっていたベッドから勢いよく起こした。全身汗だくで肩で息をしている少女の瞳孔は開いていて、その瞳から涙が一筋流れていた。
「…夢…か…」
昔に関わる夢をあんなに深く見るなんて、何年ぶりだろうか。少なくともここ最近はあんなに深くは過去に浸った夢は見なかった。
乱れた呼吸を整えてから自分が汗だくで、おまけに泣いていた事までも知った。
「(……涙の原因は…)」
『また、会おう、な…』
あれしかない。あの記憶がきっと涙の原因だ。
「(…シャワー、浴びよう…)」
きっとまだルームメイトの彼女達は夢の中だろう。ゆっくりと音をたてないようにカーテンを引き、なるべく衣擦れの音を出さないように床に足をつけ靴を履いた。
Ein Alptraum
毒に犯されたお姫様
「じゃあね、!また冬休み明けに会いましょう!」
「うん、リリー!ちゃんとクリスマスプレゼントも送るからね」
「ありがとう」
「…私も送る」
「うん、ありがとうベル。私もちゃんと送るよ」
「私も送るわ!貴女にぴったりなアクセサリーをこの前雑誌で見つけたの」
「わー、本当セルフィーナ!楽しみにしてるね。あ、私も貴女にぴったりの何かを贈るね!」
グリフィンドールの談話室内は自分のトランクケースを持った生徒で溢れ返っていた。を除いた同じ部屋のリリー達三人もそれぞれ自分のトランクを持っていて、服装は外に出る為か首にしっかりとマフラーを巻きつけローブを着、帽子やイヤーマフラーを着けていた。と、別れの挨拶をしていた四人の中に一人の男子生徒が割って入ってきた。
「エヴァンズー!帰っちゃうのかい!?帰ってしまうのk「近寄らないでくれるかしら、ポッター」
バコッ、と持っていた肩掛けバックでジェームズを殴ったリリー。これはいつもより強烈だ。そしてまたかジェームズ。いい加減懲りないのか。
ジェームズの後に続いて女子の輪に近付いてきたシリウス達にセルフィーナが声を掛けた。
「ブラック達は帰らないの?」
「ああ。オレ達の部屋の中で、帰るのはピーターだけだ。そういうレインズワース達は帰るみたいだな」
「…ブラック」
「あ?」
たたた、とベルはに近付き抱きついたかと思うとシリウスの方を見て一言。
「…休暇中に手出したら八つ裂きね…」
「………」
「あれ?ベルどうかしたの、急に抱きついてきて」
幸か不幸かにはベルの言葉は聞こえていなかったらしい。必死にアプローチするジェームズを追い払おうとこれまた必死になるリリーを何とか止めようとしていたようだ。
「(女って…)」
「あ、ピーター!また冬休み明けに会おうね」
シリウスがげんなりしている横でとピーターは別れの挨拶をしていた。そんな中、思い出したようにセルフィーナが当然の疑問を口にした。
「あれ?そういえばルーピンは?もしかして、まだ医務室?」
その言葉にシリウスとジェームズは顔を見合わせる。時を同じくしても誰にも気付かれない様に顔に影を落とした。
「ああ、そうなんだ。まだ体調がよくないらしくて、今回の休みはしょうがないけどホグワーツで過ごすらしいよ」
「折角久々に家に帰れるのに残念ね。それにしても、一週間も風邪で医務室通いなんて不運としか言いようが…」
「おいお前等もうそろ時間じゃねえのか?」
「あーっと、そうだったそうだった!早くしないと座れなくなっちゃう。リリー、ベル、ついでにペティグリュー!行くわよ!」
上手い具合に話題を変えたシリウスの言葉に今までリーマスの身を案じていたセルフィーナはリリーとベルの腕を掴み、そしてピーターに声を掛けてから、じゃ、また休暇明けに、と言って走っていってしまった。セルフィーナに引っ張られながらもリリーもベルもまたねー、と言って走っていった。その後を慌ててピーターが追いかける。
「あ、ま、待って!じゃ、じゃあ休暇明けにね!」
「うん、楽しんできてねピーター」
ピーターの慌てふためく背中を見送った後、後ろからディアミスに声を掛けられては振り返った。
「ちょっといいか?」
「?、いいけど…」
はディアミスと二人で談話室の端まで行き、他の生徒に聞かれないように小声で話し始めた。
「どうかしたの?」
「俺今日一日だけディガルスに帰るから、俺が戻ってくるまで上手く言っといてほしいんだけど…」
「了解。任せて」
姫は八つの都市のどれかに一人ずつ生まれ、その国の側近となっている。はエミュールに生まれ、エミュールの皇帝・レンの側近だし、ディアミスはディガルスに生まれ、ディガルスの皇帝の側近だ。ディアミスは近状報告や溜まりに溜まった仕事などを片してくるに違いない。
「じゃ、宜しく」
「はーい、行ってらっしゃーい」
そう言ってディアミスもディガルスへと帰る為に、外に行こうとする生徒達の群れに混ざった。その際、すれ違ったジェームズ達と一言二言交わして。
「、あいつどうしたんだ?トランクも何も持ってないから変だと思って、帰るのか、って聞いたら校長に呼ばれたっ、て言って出てったぜ?」
「(そんな微妙な言い訳しなくても…)さあ、私もよく解らないんだよねー」
「ところで。これから一緒に大広間に行って昼食食べない?」
一瞬考える素振りを見せてから、ごめん、いいや、と断りを入れた。部屋に戻ってやる事があると言い二人と別れて自室へと戻ってきたは迷わず自分のベッドに倒れこんだ。
「(…どうしよう…)」
離れない、今朝の夢が。あの子の事や、あの人の言葉が。
『貴女に、運命を変える事など出来ません。貴女は…』
「(…私は…)」
顔を少し背けて窓を見る。空からは真っ白な雪が止め処なく降っている。そういえばジェームズが冬休み中もクイディッチの練習をやると言っていた。休暇前のグリフィンドール対ハッフルパフ戦では見事グリフィンドールの勝利。皆の期待通りジェームズはスニッチを見事な箒捌きで手中に収めたのだ。二回戦も勝つ、と意気込んでいた。
果たしてこんな天気の中でも練習をやるんだろうか。
『なら、君は最年少の寮代表選手だよ。ここ何年来かな…』
『…百年ぶりだって。ウッドがそう言ってたよ』
「(…あ、れ…?)」
ハリーがシーカーに選ばれた時、ロンとハリーは何と言っていた?最年少の寮代表選手は百年ぶり?
そんな馬鹿な。だって現にジェームズは今最年少の寮代表選手だ。ハリーのいた世界から百年前なんて時代でもない。
『そういえば、今更な事だけどミネルバ。ジェームズをシーカーにしたんだってね』
『ええ。貴方の推薦通り、見事な箒捌きでしたよ』
ちょっと待って。私がジェームズをシーカーにって押してなければ、ジェームズは一年生でシーカーになる事はなかった?私がミネルバにジェームズを薦めたりしたから?
「(…私の行動で、運命が変わった…?)」
そう思った瞬間背筋に悪寒が走った。
あの行動は別に故意にではなかった。ただ単に口を滑らせて、その後は話題の種となるだろうと思い話しただけ。それなに、意図してなかった行動で運命が変わってしまった。今回はクイディッチのシーカーになる、ならないだったからよかった。けれど、これが人の生死に関わるものだったら?
「(…私の何気ない行動で誰かが死ぬことも有り得るって事だ…)」
もしかしたら、自分の何気ない行動で守ろうとしている誰かが死ぬかもしれない。
「(…怖い…っ)」
私は、どうすればいい?
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08.08.010 修正完了