ホグワーツ内の図書室。其処にはありとあらゆる魔法やマグルに関する本が置いてある。初心者向けの魔法参考書から、危険度が高いものまで。とりわけ危険なものは禁書棚、という所に保管されている。

その図書室の一番奥の一番端の本棚の一番左下。"魔法界の七不思議"の奥に其れは存在した。






「…何でこんなものが…」






表紙に"世界と異世界"と記された本。パラパラと流し読みしていくと、ある頁に辿り着いた。






"空白の姫と七姫"








"空白の姫とはこの世界とは違う別次元の世界に存在する、神に等しき人物。世界の均衡を守るために創られし存在。神に代わり、世界の原則を調律を行う。

そして七姫(セブンプリンセス)。彼等は空白の姫を守る為に神に創られし存在。空白の姫は、彼等にそれぞれ自然の力を与えた。彼等が守護するのは空白の姫と、全世界の大自然の均衡。

世界に語られている神々達(特にマグルの世界の"ギリシャ神話"に出てくる神々)はこの、空白の姫から創られし存在。彼等は、空白の姫の大自然を守護するという役目を任される。自然だけではなく、その他の均衡についても空白の姫は、次々に創り出す神々達に託した。"







「……」






誰だ、この本書いた奴。否、そもそも何でこんな本がホグワーツに。俺達七姫(セブンプリンセス)はこんな本書かないし、それは空白の姫であるも然りだ。八つの都市に住む誰かか、あるいはこの世界に住む覚醒したミュータンか。






"空白の姫についてはもう少しだけある。彼女の別名《大天使》。彼女は我々と同じ"ヒト"ではない。背中には大きな純白の羽根があるという。

そして、彼等の住まう世界の住人は皆、魔術なるものが使えるらしい"







もしも都市の奴が書いたならまだ解る。でもそうすると、何で都市にある筈の本が此処にあるのか。万が一にこの世界に居るミュータントが書いたとなれば、此処にあるのもまあ頷ける。けどそしたら、何の目的で書いた。

どちらにしても疑問が出てくる。






「ディアミス?」






名前を呼ばれた方を向けばシリウスが手ぶらで立っていた。さり気無く今開いていた本は閉じる。






何やってんだ、こんな奥の方で。何か面白い本でもあんのか?」


「それはこっちの台詞。俺、シリウスは読書なんかしないと思ってた」


「おい、それは遠回しに俺を貶してるのか?」


「正解」


「Σ(゜□゜)」


「嘘に決まってるだろ」






面白い奴。にしても、こんな奥の方で本当に何やってるんだ?まあ、それを言うと俺もその言葉に当て嵌まるけど。






「で、シリウス。冗談抜きに何でこんな奥に?」


「…別に。ちょっと暇だったから(の事が書かれた本を探してたなんて言えねえ!)」






今の一瞬の間は一体何だ。






「(…こいつ、もしかして…)」






この前の会話のヒントを探してる?

シリウスはあの時納得してなかった様に見えたし、シリウスの性格を考えると、の言う"その時"が来る前に知りたいと思う筈。そこまで長い付き合いをした訳ではないけれど、シリウスの性格は未来で大分掴んだ。もし、未来と今目の前にいるシリウスの性格が変わっていないのであれば、俺の読みはあってると思う。






「(そうなるとこの本は、シリウスの知りたい事の知識をかなり持ってる)」






なら、この本はもっと解り易い場所に移しておくか。今のシリウスは何も探してないと言った。そのシリウスにこの本を渡せば、何か企んでると思われるだろう。ならば、今はこの本を移しておくだけに限る。シリウス、なるべく早めにこの本を見つけてくれよ。がこれ以上深く関わる前にこの本を読むんだ。






「んじゃ、暇なら一緒にジェームズ達の練習見にいかない?今頃絶対しごかれてるぜ」


「おう、賛成。あいつのしごかれっぷり見にいくか」






シーカーとしてグリフィンドールのクイディッチチームに入ったジェームズ。どういう訳かもう既に運命は変わってきている。

、お前は気付いてる?









Eine geheime Versammlung
緑と銀色を背負う新たな小人











ある土曜日の、ある午後の昼下がり。図書室の一番奥の、一番端の机。其処に彼は座っていた。何か分厚い本を呼んでいる最中だ。


てか、顔と本の距離近すぎじゃないですか?


休日だというのに制服を着て、首にはスリザリンカラーのネクタイ。そして着ているローブの胸の刺繍は蛇。

じっと見ていたら此方の視線に気付いたのか本に落としていた視線を上げて此方を見られた。瞬間的にその視線は"見る"ではなく"睨む"に変わった。






「何だ?僕に何か用があるのか?」


「え、いや、別にないけど…」


「だったら早く何処かに行け。グリフィンドール生の顔など見たくない」






凄い嫌われよう。まあ、彼がグリフィンドール生を嫌っているのは知っているのだけれど。しかも頻繁にジェームズとシリウスから性質の悪い悪戯を嗾けられてたら、そりゃ憎さも倍増だと思う。






「(…って、あれ?)何で私がグリフィンドール生だって…」


「お前は嫌でも目につく」






自分的にはそんな目立った行動はして…なくはないか。入学当日から目立った行動したね、私。でも其処まで目につくかな?あれ以来大人しくはしていた「つもりなんだけど。ピーターの件はともかくとしても、だ。嫌でも目につくって、






「どういう意味?」


「そのままの意味だ。用がないなら僕の前から消えろ。目障りだ」






ワオ、相も変わらず毒舌。でもまあいい機会だし、今の時点でこの人が何処まで闇の魔術を知ってるか探りを入れてみましょうか。彼は運命を変える大きなキーパーソンだからね。






「…おい、何故其処に座る」


「ん?聞きたい事があって」






彼の前の席に座ったら案の定苦情が来た。そんな事じゃ私はへこたれないさ。






「答える義理は無い。それに、僕に用はないんだろう」


「今出来た。先ずは自己紹介からね。私は。貴方は?」






一応この世界の彼とは初対面だから名前を聞いておく。でも、返ってくる答えは大方予想がつくけど。どうせ、名乗るつもりはない、とか言うに決まってる。






「名乗るつもりはない。目障りだ。早く何処かに行け」






やっぱりね。前半の言葉なんて一字一句同じだ。さて、と。長期の話し合いになるなら私の方が有利だよ、セブルス?






じゃあいいよ。貴方の事、"王子"って呼ぶから」


「……何?」


「うん、いいね"王子"!」






うん、とっても恥ずかしいあだ名だね、"王子"。

私だったら絶対に嫌だ。廊下で王子、なんて呼ばれても振り向きたくなんてない。まあこれも作戦のうちってね。






でね、王子。聞きたい事が、」


ちょっと待て。王子は止めろ」


「だったら、名前教えてよ」


「……」






まだ渋るか、王子よ。
本当に王子って呼ぶよ。






「…セブルス・スネイプだ」


よろしくね、セブルス王子」


「王子と言うな!それより、何故ファーストネームで呼ぶ?」


「王子は冗談だよ。ファーストネームは…何となくそっちの方が呼び易いから」






スネイプ、なんて呼んだらその後ろに癖で"先生"がつきそうで怖い。それに、シリウスにも言った通り親しみを込めて、ね。

よし、とりあえずは作戦成功。






「別に問題ないでしょ?」


「…不快だ」


「直慣れるよ。あ、別に私の事もファーストネームで呼んでもいいからね」


「……こっちから願い下げだ」






いや、眉間に皺寄り過ぎだから。一年生の時からそれじゃ、将来のセブルスの眉間が危ういと思う。






「(…ああ、うん。実際危うかったな)」






未来の彼はいつも眉間に皺を寄せていた気がしなくもない。






「…お前、如何して僕に近づくんだ?」


「だから、言ったでしょ?聞きたい事があるの」


「僕に聞かなくとも、お前のお優しい根の腐ったご友人達にでも聞けば済む事だろう」






皮肉っぽく笑いながら言ったスネイプには首を傾げる。何故此処でそんな態度で言われるんだ。それに、『お優しい根の腐ったご友人達』っていうのは一体誰だろうか。






「(あ、)」






考えれば直解る事だった。『お優しい根の腐ったご友人達』はきっとジェームズとシリウスの事だ。いつも性質の悪い悪戯をされていたら、そりゃああいう言い方にもなるだろう。初めに言っていた『嫌でも目に付く』っていうのは、私が二人と一緒に事が多いからか。いつ何処で何をされるか解ったもんじゃないセブルスにとっては視界に入る限りで、二人を目で追っていたんだ。つまりは監視していたって事。






「生憎、ジェームズ達には聞けない事なの」


「フン、それでわざわざスリザリンの僕に?どうせ、貴様も僕が勉強が出来るだろうとか思ってるんだろ。僕が根暗でガリ勉だと」






うわー、まだ何も言ってないのに何か色んな事言われたよ、お母さん。

否、誰だよお母さんって。


…自分でノリツッコミは虚しいな。






「…セブルス」


「……」






見つけた時と同じように本に視線を戻してしまったスネイプに呼びかけるも反応は無し。






「王子」


「だからそれは止めろと…っ!?」






苦情を言う為に顔を上げたスネイプの額にのデコピンが飛んだ。スネイプは声にならない声をあげながら額を押さえて痛さに耐えている。が、そんな事は気にしない。






「あのねー、私はそんな事一言も言ってないんだけど。根暗かどうかなんて、その人の見方次第で変わるもんでしょ。私は貴方と話したの今回が初めてなんだから、根暗かどうか何て判断できないよ。

それに、ガリ勉だって悪い事じゃないでしょ。自分の為になって良いと思うよ。それに、テスト前になったら皆必死で勉強するじゃない。あれだってガリ勉でしょ?という事はガリ勉は貴方一人じゃないじゃない。この学校の大半がガリ勉だと思う」






本当は最初からそんなに卑屈になってたらそれこそ根暗じゃない、とかも言いたいけど、そんな事を私が言ってもただの煩い説教に聞こえちゃいそうだから言わない。






「私は別にセブルスが根暗でガリ勉だと思ったから質問するんじゃない。それに私は勉強で解らないところをセブルスに聞きたい訳じゃないしね」






かなり驚いてるね、これは。まあ、口を挟ませないように早口で捲くし立てた様な感じで言ったから当然の反応だろうけど。

確かにセブルスは、ガリ勉はともかくとしても根暗かもしれない。けど、それは別に悪い事じゃないと思う。根暗だ根暗、と虐めをする人達の気がしれない。根が暗いから何?自分達と対等じゃないとでも思ってるのか。彼等はそれだけ何かを必死にやっているという事じゃないのか。一方に集中するあまり、他方に気が向けられなくなるだけじゃないのか。だとしたら彼等はただ少し不器用なだけ。蔑まれるのはおかしい。

なんて、今この場で言ったとしてもまた反論されそうだからこれも言わない。今は早く本題に入らないと。タイムリミットが迫ってきてる。






「…何を企んでいる」


「別に企んでるわ訳じゃないよ。

ねえ、セブルス。貴方今の段階でどれくらいまでの闇の魔術が使える?」






別に、学ぶのを止めろとは言わない。そんあ事を言う気は最初から毛頭ない。学んでおいて損はないとおもうから。現に未来の世界では、何度も闇の魔術の知識があるセブルスに助けられた。

私はセブルスが何時頃、騎士団に入ったのか知らない。元は死喰い人側だったセブルスが何時頃、しかも何故、騎士団に入ったのかが解らない。でもきっと、セブルスが騎士団に入ってくるのを待っていたら私の目的は確実に成し遂げられないような気がする。そうなると、セブルスが闇の陣営に行かないようにするしかない。セブルスの力は私の目的を達成するには、多分必要不可欠なもの。

セブルスを闇の陣営に行かせない為には、彼が何処まで闇の魔術に関わっているのか知る必要がある。どこまで関わっているかによって、闇の陣営に憧れているのか否かが解るから。






「(閉心術や開心術までならまだしも、許されざる呪文を習得し始めたら、それはもうレッドカード)」






その時には確実に死喰い人になると決め手いる筈。それだけは阻止しなければ。今はそこまで頻繁に調べる必要はないけれど、これから年月が過ぎるにつれて、そうはしていられなくなるだろう。






「(…私、)」


「…何故お前にそんな事を教えなければならん。それにお前がその事をあの忌々しいポッター達に告げ口しないという確証もない」






セブルスの返事を聞きながらも、脳裏には別の言葉が浮かんでいた。






君は勇気と、真っ直ぐな心と知恵、そしてどんな事をも達成させようという思いを持っている』






組み分けの儀式の時に言われた言葉。

"どんな事をも達成させようという思いを持っている"、か。私のこういうところがスリザリン向きなのか。セブルスをも利用して自分の目的を達成しようとしている、"この自分の目的の為なら手段を選ばない"、という選択をしている私のこういうところが。






「…別に告げ口したりなんかしないわ。そんなことしても私にはなんの得もないしね。ただ、私もちょっと闇の魔術には詳しいから気になっただけ」







セブルスの眉間に更に皺が寄った。まずい、失敗したか?ここで失敗すれば、この先どれくらい関わったかなんて一生聞き出せそうにない気がするのだけれど。






「…お前、闇の魔術を使えるのか?」


「…まあ、ね」


「どれくらいだ?」


「どれくらいだと思う?」






ニコリ、とおどけた様にいったにスネイプは口調を強くして答えろ、と言った。それには一瞬考えはしたものの、これは隠す必要はない、と思い素直に答える様にした。恐らくは無自覚だろう。言葉を言う時にふっと微笑んだかと思うと、その笑みはとても悲しみを帯びていたようにスネイプには見えた。






「残念ながら、許されざる三つの呪いまで使えちゃうの」






大嫌いな闇の魔術をそこまで扱える自分を、ジェームズ達はどう思うだろうか。そして、この目の前の人物も。

未来の世界で、より協力に身を守り、周りの人達をも守るには、敵と同じ闇の魔術を知り、そして扱えるようになるのが一番だと思った。だから、セブルスに頼み込んだ。けれど、貴方は知識こそ少量はくれたものの、闇の魔術は私に一切伝授してはくれなかった。思えばそれも貴方の優しさだったんだと思う。






「(だから私は独学で身につけた)」






許されざる呪いも、より高度な知識も全てディアミスと共に学んで、身につけた。でもそれは、






「(…って感傷に浸ってる場合じゃない)で、セブルス。貴方はどこまで…」


「てめっ、スニベルス!に何してやがんだ!」






の声を遮って聞こえた第三者の声。






「(まずい…)」






今一番見られてはいけない人物に見られてしまった。











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08.08.010 修正完了